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歯科衛生士による浸潤麻酔について 日本歯科麻酔学会認定歯科衛生士の立場から考えてみる
- 著:阿部田 暁子 先生 /
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歯科衛生士が浸潤麻酔をする時代へ
昨今歯科衛生士による浸潤麻酔の施行についての議論が取り交わされていますが、皆様の施設においてはいかがでしょうか?
これまで、歯科衛生士教育機関においては歯科衛生士の浸潤麻酔についての実習や教育はほとんどなかったのが実態ではないでしょうか?そんな中、昨今になり「歯科衛生士に浸潤麻酔ができる!」となった経緯とは?

様々な学会からの見解
2021年3月に特定非営利活動法人日本歯周病学会より、歯科衛生士による浸潤麻酔に関する声明が発表されました。「浸潤麻酔行為を含む歯周病治療に積極的にかかわろうとする歯科衛生士を支援する」という内容でした。その後、歯科衛生士に浸潤麻酔ができるか否かの論評や講習会を1日受講すると浸潤麻酔ができるようになるなど、情報も混乱しました。
その後も一般社団法人日本歯科麻酔学会からは、「局所麻酔薬には成分に血管収縮薬を含むため全身的な偶発症を発現する可能性があることと、実際には困難である考え、そして、今後の卒前卒後の教育体制についても整備に協力をすること」を言及しました。そして2024年7月には公益社団法人日本歯科医師会からは「現状の卒前卒後教育から、法的には妨げられるものではないが、社会的認知度の観点から現在同行為を行うことは必ずしも適切とは考えていない。指示を行った歯科医師がその責任を負うことの留意や慎重に」という文言でした。ただし、より確実に安全を担保するための研修の充実を図っているとのことです。
このようなことから、まだまだ歯科衛生士が積極的に浸潤麻酔を進んで行っていこう!という段階ではないことがわかります。ただし、歯科衛生士の今後の可能性について考えれば、将来的にはその様な時代になっていくことは考えられます。

一般社団法人 日本歯科麻酔認定歯科衛生士とは?
私が取得している一般社団法人日本歯科麻酔認定歯科衛生士は、口腔内に特化した歯科衛生士からすると少し分野違いのように感じるかもしれません。この制度は日本歯科医学会の専門分野の1つである日本歯科麻酔学会により2015年から始まりました。その目的は「地域社会の歯科医療における安全性の向上に貢献することをめざして歯科診療における全身管理を関連する領域でチーム医療に参加できる知識と技能を有する歯科衛生士を育成すること」となっており、2024年10月現在は193名の歯科衛生士が取得しています。その資格取得のためには全身状態の評価と管理の補助、バイタルサインやモニタリング、救急蘇生 BLSプロバイダーの取得が必須であり、まさに患者さんを観察する技量を持ち合わせる資格となります。視点が口腔内だけではなく、もう少し広げた患者さんの全身状態の把握を行います。認定取得後はホームページに氏名が掲載されます。浸潤麻酔を行うにあたっては患者さんの観察はもちろんのこと「浸潤麻酔をして何かあったらどうするの?」というところまでを考えておかなければならない、そしてその知識や技量、経験を積んでいなければ安全に行うことにはならないということなのです。
日々次々と来院する患者さんを歯科医師が、SRPの際に歯科衛生士が浸潤麻酔をしてくれたら効率が良い、のは「本当、そうですね!」となるところなのですが、その施術を行った歯科衛生士が、もしもその際に患者さんに何かがあった場合にその対応ができないのであれば、それは「リスクを伴う行為」になってしまうのです。さらには、施設側が体制を整え臨んだとしても、患者さん側が「なぜあなた(歯科衛生士)が麻酔をするの?」「慣れてない感じで余計に不安になった」ということがある場合も想定していないとなりません。

まずは全身管理の知識から始めましょう
以上のことから、浸潤麻酔を歯科衛生士が行うか否かを討論する以前に、まずはその患者さんのことを知ることから始めましょう。メインテナンス時には必ずお薬手帳などを確認し、普段から気を付けなくてはならないことを把握し、適切な口腔衛生指導を行うことが大切です。そして、チーム医療の一貫として全身管理に臨むこと、何かあった場合には異常に気付き、モニタリングを行うことができ、偶発症や合併症の対応ができるようになることが、浸潤麻酔の施術ができることにつながると思います。浸潤麻酔を行う歯科衛生士はもちろんですが、普段からの臨床の中では実は一番重要なことなのだということを、ぜひ皆様にも知っていただきたいと思います。
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