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正しく理解したいフッ素のこと 【vol.2】フッ素は危険? Dr.DHともに正しく理解したいフッ素のこと

著:竹内 一貴 /

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イメージで語られる危険性

私自身が講演会での質問や行政の方との打ち合わせ時にフッ化物に対する否定的な意見に対する対応法などを尋ねられる中で、フッ化物を危険と考える方々には大きく分けて2つのグループが存在すると感じるようになりました。
まずは国家などによる陰謀論を信じる方、そしてフッ化物に対する無知によって週刊誌などの誤った知識を鵜呑みにしてしまった方です。

この連載を書いている現在、衆議院総選挙に向けて解散風が強くなってきましたが、政権批判をするために根拠の薄い論拠をもってフッ化物を活用したう蝕予防の医療行政や公衆衛生を否定する政党が登場することが度々存在します。
以前の選挙時には「ナチスドイツが強制収容所でユダヤ人を虐殺するために用いていた」「非国民内閣が外国と結託して日本人の知能を低下させ侵略を促している」「環境破壊をもたらしたフッ素を人体に使うのはあり得ない」などセンセーショナルな謳い文句と共にフッ化物を否定されていました。

新型コロナウイルスへのワクチン接種においてもSNSなどに頻繁に登場したこのような陰謀論は論理的科学的な思考を失わせ、他の方が適切な医療を受ける機会を奪ってしまうことに繋がりかねないため厳に慎まないといけません。
よく題材に登るナチスによるフッ化物の虐殺への使用も映画や小説から波及したもの以上の根拠は存在しないとされています。

根拠の薄い論文については自分で原著を確認することが最も確実ですが、典型的なのはフッ化物濃度の高い井戸水やフロリデーションされた水道水を常飲している限られた地域での健康被害の報告に加えて高齢出産や貧困層の多い地域の特異的な疾患を、フッ化物に絡めて批判的に述べられることが多いです。

例えばフッ化物を高い濃度で含有する井戸水を常飲する地域で高齢出産の比率が高くダウン症の発生率が高まってしまった事例を短絡的に捉えてフッ化物の影響でダウン症の乳児が多く生まれたと、教育レベルが低くう蝕の発生率が高いことに伴って水道水にフッ化物を添加している地域で結果として学習成績の低い子供の割合が高い状態だけを捉えてフッ化物が脳に影響を及ぼして発達レベルが低くなると誤解を招くような主張がなされてしまいます。

このようにデータを誤って捉えることを避けるために論文などにおいて交絡因子と呼ばれるバイアスを排除した上で確率を求められるべきですが、フッ化物を否定すること自体が目的になっている場合に交絡因子の設定など批判的な吟味を行わずに発表者自身にとって都合の良いデータを発表されることがあり、多くの学会誌では査読を経て根拠の乏しい論文は淘汰されてしまいますが、インパクトファクターの著しく低い学会誌やハゲタカジャーナルなどでは掲載料欲しさに査読なしに論文が投稿されることは珍しくありません。
論文を参考にする際には内容だけではインパクトファクターの高い信頼度の高い学会誌から発表されているかについても確認してみて下さい。

有機フッ化物との混同

そして、無知による誤解のパターンですが、有機フッ化物と無機フッ化物を混在してしまっていることや、信頼性の低いケースレポートにおけるフッ化物による健康被害を盲目的に信じてしまっていることが多いように思います。

まず、う蝕予防に使用しているフッ化物は無機フッ素化合物であり、毒性の強い有機フッ素化合物と全く異なる物質です。

フッ素の害などと否定的に報道されることが多いですが、実際には有機フッ素化合物と混同されて説明をされていることが多いように感じます。
無機フッ素化合物はフッ素とナトリウム・カルシウムなどと結合した化合物である一方、有機フッ素化合物(PFAS)はフッ素と炭素が結合した化合物で熱に強く油をはじく性質からフライパンのコーティング材・界面活性剤として洗剤などに幅広く活用されています。

しかしPFASには化学的に非常に安定しているため直ちに影響があるとは限りませんが、発がん性、肝臓や甲状腺障害、ワクチンによる免疫効果の低下などの悪影響があるとされており、このような影響を歯磨剤に含まれているフッ化物と混同している記事やサイトを見かけることがあるため情報収集において注意が必要です。

表. PFASと歯科で使用するフッ素の違い

*第一種特定化学物質とは、難分解性、高蓄積性及び長期毒性又は高次捕食動物への慢性毒性を有する化学物質です。
※公益社団法人日本小児歯科学会小児保健委員会「PFAS と歯科で使用する無機フッ素化合物について」より引用
(https://www.jspd.or.jp/recommendation/pdf/202303)

次にケースレポートなどからの思い込みに対しては前述のようにハゲタカジャーナルでは無いことに加えて、事象数なども合わせて確認する習慣を持つべきです。
安全性も効果も完璧な対策は存在しないため、リスクと天秤にかけてフッ化物を活用した予防的対策の実施を検討するべきで非常に稀な事例から本質的な判断を誤るのは避けるべきです。

そして、セラミックスの表面処理材としてのフッ化水素酸をフッ化ナトリウムと誤って患児の歯に塗布し死亡事故に至った1982年の事例も医療者側の誤解から生じています。我々も「フッ素」と安易にひとくくりにせず、それぞれの材料に対して正しい知識を持つべきです。

まとめ

今回はフッ化物の危険性について情報の取捨選択を含めて述べさせていただきましたが、フッ化物は「塩」や「酸素」などと同じように適切な量を摂取すると体にとって良いもので、過剰に摂取したり摂取量が不足したりすると健康にとって負の因子となりますので適正量の摂取に配慮するようにしましょう。
次回はその摂取量におけるフッ化物中毒の注意点やフッ化物以外のう蝕予防に関わる材料について解説していきます。

Introduction

著者紹介

竹内 一貴

竹内歯科医院 院長

【ご所属学会】
日本顎咬合学会
日本顕微鏡歯科学会
日本歯科審美学会
日本歯内療法学会
日本接着歯科学会
日本臨床歯周病学会
日本臨床歯科医学会(京都SJCD)
【ご所属スタディグループ】
KDSC
TDSC
アイプロ主宰
K2-シグマ代表世話人