column - Article

コラム - 記事

【臨床力を高める!根管治療の基礎から応用までの完全ガイドvol.1】根管治療の第一歩〜正確な根管口探索の技法、マイクロスコープ導入の意義〜

著:北條 弘明 先生 /

関連タグ:

1. 細菌はどこに?

 多くの先生が誤解されていることで、根尖性歯周炎の原因は根尖付近又は根尖孔の外側に問題があると考え、揮発性の高いFCのようなもので貼薬して治療しようという試みを耳にします。

 しかし、菌数で見ると根管上部に細菌は一番多く、次に中央部、最も菌数が少ないのは根尖付近という結果になります。勿論、根尖付近の菌も除去しなくてはいけないのですが、肝心なことは根管上部から順番に丁寧に菌数を減らしていく事が成功の第一歩なのです。fig1は根管治療開始前の状態です。髄腔に到達するカリエスがあります。fig2はカリエスを除去し、隔壁を立て、ラバーダムをかけたところになります。う窩には多くの菌がいますのでここを残したまま治療しても、治療中に菌を撒き散らしますし、仮封の際に、唾液中の菌の侵入を許してしまいます。
 根管治療のコツとは、『出来ることをしっかり丁寧に』以外、何も無いのです。私たちの目指す根管治療とは、マイクロスコープで神業のようなことをするより大事な事があるのです。「マイクロスコープとラバーダム、どちらが根管治療に不可欠ですか?」と聞かれたら私は迷わずラバーダムと答えます。どんなに性能の良いマイクロスコープがあったとしても、細菌数を減らす機能があるわけではありません。カリエスを完全に除去し、隔壁を立て、ラバーダムで先ず、新たに根管内に侵入する菌数を極力抑え、そこからマイクロスコープで汚れている可能性があるところを探し、綺麗にしていく。物事の本質を誤ってしまうとどんな素晴らしい機材を使ったところで思ったような結果が出せず、多くの先生がお考えの根管治療は運任せになってしまいます。

2. マイクロスコープで何を見ているのか

 根管上部の形成が重要であることはご理解頂けたと思いますが、そこからさらに踏み込んでいきたいと思います。先生方の中で上顎の6番の治療に苦手意識がある先生は多いのでは無いかと思います。ご存知の通り、MB根にはMB2という根管が並走している事が多いのですが、入り口がわかりにくいものが多く、未処置のまま補綴に至るケースをよく目にします。すると、残留歯髄が細菌の餌になり、しっかり治療したつもりが治癒しないという結果になってしまいます。  MB2の見つけ方としてはMB根をまず探索し、根管口の明示を行います。すると口蓋側に向かい伸びていくイスムスが多くの症例で見受けられます。イスムスが見つかったら超音波スケーラーで丁寧にイスムスの終わりまで綺麗にしていきます。そこまで出来たら私はファイルホルダーという、手用ファイルを把持するピンセットを用いて#8号のCプラスファイルをイスムスに沿わせて突いていきます。 その際のコツとしては力を入れすぎず、少しずつ突き刺す位置をずらしていくことです。(fig.3)

ズブっと入るところが見つかったら、ファイルホルダーからファイルを外し、優しく3回突き刺します。ここで焦って強めに動かすとCプラスファイルの先端が曲がってしまいますので、そーっと丁寧にを心がけてください。また、Cプラスファイルは回さないでください。
あまりにも細いので破折したことにも気がつかないと思いますので、回さず、そーっと上下運動でファイルを根管内に入れていってください。ある程度入ったら私の場合はDファインダーの#8号に持ち替えて同じことをします。
DファインダーはCプラスファイルと違い、刃が根管に噛み込みにくいので湾曲している根管では入りやすいです。次に#10のKファイルで同じように力を入れないように上下運動させます。
この3つのファイルを交互に使っていき、6ミリ程度入ったら根管口を形成するニッケルチタンファイルを使い、根管口を明示していきます。
あまりにも浅い状態で根管口を明示しようとすると、根管を見失ってしまう事がありますのでここは丁寧にゆっくり作業して頂くことをおすすめします。
根管口を明示するとより、ファイルが入りやすくなると思いますので、#8のCプラス、Dファインダー、#10のKファイルを順番に突いていき、根尖まで到達することを目指します。根管形成は次回以降に詳しくお話ししますので、今回は兎に角、丁寧にやるということだけ伝わればと思います。

MB2以外にも意外と見逃されている根管があるので、以下にまとめます。

下顎前歯 舌側根の見逃し
下顎小臼歯 舌側根の見逃し
上顎第一小臼歯 1〜5%に3根管
下顎第一大臼歯 アジア人に4根(遠心舌側根)が多い(fig4)

3. まとめ

 人の体は千差万別です。絶対にこう、ということはありませんので、環境が許すならCBCTで事前に確認しておくのも重要かと思います。CBCTが職場にない先生も、「何か変だな」と感じたらファイルを試適してレントゲンを撮影するなど、ちょっとした一手間で理解がぐんと深まります。マイクロスコープで見たから治るということはありません。丁寧な処置の積み重ねが重要で、その際にマイクロスコープが便利ということを今後、導入予定の先生は理解して頂くと良いかと思います。

第1回は根管の探索方法とマイクロスコープについて簡単にお伝えさせて頂きました。これを機に、教科書などを読み直して頂き、明日からの治療をもっと良いものにしてもらえたら嬉しいです。

Introduction

著者紹介

北條 弘明 先生

ほうじょう歯科医院 新日本橋院長

日本顕微鏡歯科学会認定医/スタディークラブ徹夜会所属