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【臨床力を高める!根管治療の基礎から応用までの完全ガイドvol.2】根管治療成功の基盤を築く!髄室の拡大から根管長測定までの重要ポイント

著:北條 弘明 先生 /

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1. 最善の髄室開拡とは

 ninja accessという言葉を聞いた事はありますでしょうか。小さい髄室開拡で抜髄を行い、根管形成による象牙質の切削を最小限にする試みです。ネットで調べると色々な先生が曲芸の様な治療をしており、とても感心させられます。
では、私はninja accessを行なっているかというと行なっておりません。近年、柔軟性の高いニッケルチタンファイルが普及し、CBCTも多くの医院で導入されたため、以前では考えられなかったような髄室開拡が出てきました。
私もその恩恵に預かっておりますが、根管治療をやればやるほど、歯髄の除去や洗浄の難しさを痛感します。少なくとも自分の技量では普通に髄室開拡をするメリットがninja accessを行うメリットを上回れるとは思えないのです。歯質を残す努力はしつつ、技量を超えた事はしないようにしましょう。

2. 髄室開拡時に留意するポイント

 まず、歯髄がどこにあるのかを意識して切削しましょう。上顎6番であれば近心頬側咬頭頂を超えないように、口蓋咬頭頂を超えないように意識します。DB根は歯の中央より少しだけ遠心にある事が多いので歯の真ん中を超えないようにまずは切削します。(Fig1)

下顎の6番であれば、一般的にはD字型に削ると習います。(Fig2)
しかし、前回のコラムでも書かせていただいた通り、下顎の6番は4根ある場合も多いので、術前のレントゲンを慎重に見てください。必要があれば偏心投影を行い、何根あるのか把握してから始めましょう。遠心舌側根は思ったより舌側に位置することもあります。
また、遠心舌側根は湾曲がきつい事が知られています。ニッケルチタンファイルなどで形成する必要がありますが、破折に気をつけましょう。

 下顎の前歯も意外と難しいです。2根ある場合、舌側から髄室開拡すると、頬側根しか触れられません。切縁を超えたところから歯軸に沿って切削しましょう。(Fig3)

 コラムを執筆していて思ったのですが、簡単な髄室開拡は1本もないことを痛感します。抜髄は歯科医師の責任がとても重い処置です。根管治療を行った歯は生活歯と比べ臼歯部では7倍以上、喪失のリスクが上がってしまいます。なるべく歯質を残しつつ、再治療にならないよう、慎重に行いましょう。

3. 根管口の明示

 髄室開拡が終わったらいよいよ根管口の明示です。上手な先生はここにとても時間を割きます。慌てず、しっかり行いましょう。

 根管口の明示ですが、根管上部を拡大するためのニッケルチタンファイルがあり、それを使うのも良いと思います。ここではどのクリニックにもあると思われるゲーツで解説させて頂きます。
ゲーツはどのくらいのサイズかご存知でしょうか?答えは
 #1は50号のファイルと同じサイズ
#2は70号と同じサイズ
#3は90号と同じサイズ
#4は110号と同じサイズ・・・
といった形で20号分ずつ大きくなっていきます。
 実はこれが大事で、根管というのは根管口から根先まで、大体12m mくらいの長さになることが多いです。犬歯は勿論もっと長いですし、人によって大きく誤差はありますが、この目安は初心者には役に立ちます。
根管洗浄で次亜塩素酸Naをみなさんお使いだと思いますが、次亜塩素酸Naが先端まで灌流するためには#40号程度まで根管形成する必要があると言われています。
根管形成で付与するテーパーが6度と仮定すると、12✖︎6➕40=112となり、平均的に112号程度の根管口の拡大が必要になります。すると#4のゲーツがちょうどいい大きさである事がわかります。
形成量を減らすために4度のテーパーで形成しようとすると、12✖️4➕40=88となり、#3のゲーツを用いるとちょうど良い事がわかります。#25号の8度テーパーのファイルで最終形成するシステムであれば12✖️8➕25=121となり、#4のゲーツより少し大きめな根管になると言えます。
 ご自身のクリニックで使用しているシステムを熟知し、適切な根管口の拡大を目指してください。

4. 穿通の意味

よく私のクリニック宛に、紹介元の先生から「穿通できなかったのでご紹介します」といってご紹介頂く事があります。とてもありがたいと思っております。
しかし、穿通ができないと根管治療は失敗するのでしょうか。再根管治療の際に、穿通、排膿すると気持ちがいいですよね。これで患者さんも楽にしてあげられると安堵する先生も多いと思います。しかし、このような成功体験が誤解を招いている側面があります。水風船のような根尖病変をプスっとさして排膿する事が根管治療の目的ではなく、免疫応答が働かない根管内を可能な限り菌数を減らし、充填物で死腔を埋め、根尖孔の外側は免疫応答が働いているので、特に何もしない。それが根管治療の考え方です。
つまり、根尖−0.5mmで穿通が叶わなかったとします。その0.5ミリ分の#10号の器具も通らない部分に存在する菌は果たしてどのくらいいるのでしょうか。あまりにも根管形成がアンダーな場合、それは考えものですが、穿通できなかったからといって全てを諦める事はないのです。

 では私は穿通を無意味と考えているかというとそんな事はありません。穿通した瞬間が根管長測定器の精度が一番高いと言われていますので、根管長を決定し、作業長までの根管形成を安心して行う事ができます。穿通できなかったとしても全てを諦める必要はありませんが、なるべく穿通したほうがいいと言えます。

 穿通に用いるファイルはケースバイケースなのでこれが一番というものをご紹介するのは難しいのですが、細いものを使うというのは間違いないと思います。根尖を破壊してまで得られるものは少ないと考えています。

まとめ

 根管治療の第一ステップとして髄室開拡は重要です。教科書等で髄腔形態を確認し、余剰な切削は控えましょう。根管口の明示は重要なステップです。ここがしっかり出来ていれば、湾曲根管でもスムーズに根管形成や穿通が行える事が多いです。急がば回れです。
 穿通には多くの誤解があるように感じます。根尖を突き刺す事が治癒に重大な結果をもたらすわけではありません。根尖はなるべく壊さないように注意してください。

Introduction

著者紹介

北條 弘明 先生

ほうじょう歯科医院 新日本橋院長

日本顕微鏡歯科学会認定医/スタディークラブ徹夜会所属